鵠ノ夜[中]
どうされました?じゃないわよ。
わたしが、どれだけ。……どれだけ、あなたの事を心配していたか。
「すみません、何の連絡も出来なくて。
対応に追われていたらこの時間になってしまいまして」
「なんともなかった……?」
「ええ。ただ遺体の第一発見者になってしまっただけですので、話を聞かれただけで終わりました。
……雨麗様や御陵家に仕えておきながら、危うい目に遭わせてしまい申し訳ありませんでした」
「それはこっちのセリフよ……」
抱きつく腕に、そっと力を込める。
それから彼等を危ない目に遭わせてしまったことに謝罪の言葉を口にすると、小豆は首を横に振ってわたしのことを優しく抱き締め返してくれた。
まるで、大丈夫だって伝えるみたいに。
「私が見つけた時点で、被害者が亡くなってから数時間経っていたと思われます。
実際、3時間ほど前の行動を尋ねられましたが、事務所にいたという確実なアリバイもありますし。遺体がなんせ薬漬けですので、調べることも多くて向こうも動くに動けないんでしょうね」
「……うん、」
「また話を聞くかもしれない、とは言われましたが。
それ以外は特に何も無かったので、ご安心ください」
「……うん」
その腕の中で、一度瞼を伏せる。
それから顔を上げれば、ゆっくりと顔にかかる影。
「今からお風呂行こうと思ってたんだけど」
敷いてあった布団に、横たわる身体。
照明を絞り、ジャケットを脱いでネクタイを緩めるその姿にときめいてしまうんだから、どうしようもない。