鵠ノ夜[中]
レイちゃんはきっと、その言葉がどれだけぼくのことを喜ばせるか知らない。
そしてそれが出会ったあの時から、ぼくの中で微塵もブレていないことも。知られたって恥ずかしいだけだから、知らないでほしいけど。
「もう少し協力してくれる?」
首を縦に振らない理由なんて、あるんだろうか。
迷わずうなずいたぼくにレイちゃんは優しく笑ってくれて、彼女が全国を代表する極道一家のお嬢だなんて、うそみたいだと思った。
「ねえ、レイちゃん」
ひとつだけ、黙ってることがあるんだ。
「もう遠慮しなくて大丈夫だよ」
最初からずっと。
その気持ちは変わらないのに、言えなかったこと。
「……遠慮?」
「ぼくの、お兄ちゃんのことで。
みんながぼくに所々気を遣ってくれてるって、知ってる」
ぼくはね、レイちゃん。
「今までありがとう、みんな。
ぼくは茲葉家の若としてここに来たし、"茲葉"を継ぐことに迷いはないよ」
レイちゃんのことが、すきなんだ。
出逢って彼女を一目見たその瞬間から、ずっと。
「だからもう遠慮しないで、
ぼくのことも同じように扱ってくれていいんだよ」
本当は。
誰よりもはやく彼女をすきになったのは、ぼくだった。


