鵠ノ夜[中]
ぼくの勘は、大して当てにならない。
……ううん、当てにすることさえしてこなかった。自分がただ見たことだけ信じて、ほかの可能性なんて考えてこなかった。
そうやって逃げたって、お兄ちゃんが死んだことに変わりはないのに。
いままで向き合えなかったぼくの言葉も、レイちゃんは一言一句逃さずに聞いてくれる。
レイちゃんだけじゃない。はりーちゃんも、こいちゃんも、シュウくんも、ゆきちゃんも。真っすぐに話を聞いてくれるから、逃げたくなかった。
臆病者で頼りないぼくで終わりたくない。
せめてお兄ちゃんがどこかで、自慢の弟だったんだって。そう言ってくれるような存在に、なりたいって思う。
「たしかに、不審な発言ではあるわね」
「うんー。まあ、何にも関係ない可能性もあるんだけど、」
話を聞き終えたレイちゃんは、腕を組んですこし考えたあと。
おもむろにお仕事用のスマホを取り出して操作すると、それを耳に当てた。
「もしもし?
今から言う相手のこと調べてくれる? 5分で」
レイちゃんが、相手に三嶋さんのフルネームを告げる。
それからほんの少し無言で待ったかと思うと、見惚れてしまうくらい綺麗に口角を上げた。それは言われなくてもわかる、確信の笑み。
「芙夏、ビンゴ」
「え、」
「あなたの直感が役に立ったわ」
電話を終わらせ、レイちゃんがぼくの目の前まで来る。
その言葉の意味を呑み込めないままのぼくの頭を、レイちゃんは優しく撫でてくれた。きゅっと、すこしだけ心臓が小さくなったように感じる。
「あなたに任せて正解だった」