鵠ノ夜[中]



「っ…、」



常備されているソレの中身がなくなれば、ベッドの上にはようやく静けさが訪れる。

たくさんストックされていたはずなのに無くなるってことは……と、昨夜の回数を思い出して背筋が思わず粟立った。



少し時間を置くとぐったりして動けなくなるわたしを憩はいつも放ったらかしにして、シャワーを浴びて朝食を済ませてから仕事に行く。

オートロックになっているから好きな時に帰れと言われていた。



だから用事がない日は帰らないってこともあって、そのまま連泊させてもらうことも少なくない。

連泊した時はさすがに憩も遠慮してくれて、添い寝してくれるのが好きだった。



「腰痛いならさすってやるからこっち来い」って。

原因は自分のくせに。優しく腰をさすってもらっていたら、そんなことどうでもよくなって。その横顔を見つめられることが幸せで。



「憩……好き、」



俺も、って言ってくれることは本当に少ない。

稀に大事にしてくれてるとわかる言葉を吐くけど、基本的には「そうかよ」と流される。




「なあ、お前本気で御陵継ぐ気か?」



その日はめずらしく、まだ太陽が顔を覗かせていない時間に解放してもらえて。

彼の腕に頭を乗せながら微睡んでいたわたしは、すこし時間を掛けてからその言葉の意味を理解した後、「うん」とうなずいた。



「むしろ……

他に誰が継いでくれるっていうのよ……」



「そんなのどうとでもなるだろ。

お前しかいない様に扱ってるけど、実際お前になんかあったら、お前の両親はどうにかして跡継ぎを探す」



「わたしに"何かある"よりも……

わたしが継いでしまう確率の方が、圧倒的に高いじゃない……?」



わたしの枕になっているのとは反対の腕で抱き寄せられて、密着する。

すぐそばから聞こえる声が心地よくて、自然と重くなる瞼。いつも素っ気ない憩が腕枕して抱き寄せてくれて、さらには髪まで撫でてくれて。



「憩、何かあった……?」



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