片翼を君にあげる②

「そなたは、嫌ではないのか?」

「え?」

「わしがツバサと話をし、過去を思い出し……。その結果、万が一わしの方に良き風が吹いても……後悔せんのか?」

わしのその問いに、彼女は一瞬だけ目を見開いて考えるようにした。
けれど、すぐに微笑んで……。その直後に想像した通りの返事を言う。

「ツバサがもしも、そんな素敵な想い出を覚えていないような薄情な男性(ひと)だったら……。私はきっと、彼を好きになったりしません」

その言葉と笑顔を見た瞬間。きっと、わしの恋の敗北はすでに決まっていた。

「それに、私、嬉しいんです。蓮葉(レンハ)様が、ツバサを好きになった理由がとっても素敵な事だったから……。
もしも……。もしも、蓮葉(レンハ)様がツバサを好きな理由が彼の容姿(見た目)だ、って言われたら、すごく……すごーく、悲しかったんです」

そう、とても穏やかな美しい表情で語るレノアーノ様。

ーー……ああ、本当に。
この方は、女神様みたいじゃな?ツバサ。

「だから、今嬉しいんです!
ツバサを想ってくれる女性(ひと)蓮葉(レンハ)様のような方で、本当に良かったですっ」

美しい心が、心地良い響きで鳴った。

それはわしの方じゃ、レノアーノ様。
自分の愛する男性(ツバサ)の想う女性(ひと)レノアーノ様(この方)で良かった、と。わしも、心から思う事が出来た。

いや、本当は村で一緒に攫われた瞬間から思っていた。
自らが人質となる事で村人達の被害を最小限に留めようとしたその姿を見た時。なんと心の綺麗な人だ、と思っていた。

ーー参ったの。
恋敵じゃったのに……。好きになってしもうたわ。

わしは、レノアーノ様に握り締められていた手を優しく解くと、きゅっと今度は自分が彼女の手を握り締めた。

「……そうじゃな。
では、ツバサと話す為にも、何としても無事にここから帰らねばならぬ」

そう言った直後。洞窟内に足音が響き、わし等が居る牢の方に人が近付いてくる気配がする。
< 245 / 262 >

この作品をシェア

pagetop