僕が愛した歌姫
☆☆☆

俺が荷物を片付け終えたとほぼ同時に、ヒロシが両手に酒とつまみの袋をぶら下げて帰ってきた。


「あれ? もう片付けたのか、手伝ってやったのに」


とか言いつつ、手伝う気なんてさらさらなかったようにテーブルに酒の缶を広げていく。


退院即日で飲酒もどうかと思ったが、久しぶりの酒を目の前にするとどうしても手が出てしまう。


「うまいな」


懐かしい苦味と炭酸が喉を通過していくと、自然とそんな言葉が漏れる。


そんな俺を見てヒロシは満足そうに笑った。


「あぁ、うまい」


「お前は毎日飲んでんだろうが」


「何言ってんだ、俺もお前が退院するまで我慢してたんだぞ」


「へぇ? 珍しい」


「ってことで後で半分金払えよ」


全く、しっかりしてやがるんだ。
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