聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「あの、副社長。先日の失礼な発言は撤回させてください」
「失礼な発言? どれだ?」

 十弥は眉根を寄せて首をかしげる。自分はいつもそんなに無礼だろうか、と玲奈も唇をとがらせる。が、ここは自分が大人になろうと気を取り直した。

「前時代的と言ったことです。副社長のこれまでの仕事を詳しく知ると、そんなことないとわかりました」

 むしろ、十弥は実力主義を徹底して貫いている。ロンドン時代の彼は人種や性別にこだわらず実力のある人間をどんどん重要ポストに抜擢していて、その人材育成能力は高く評価されていた。

「名家の御曹司なので古い価値観の持ち主なのだろうと色眼鏡で見ていました。前時代的なのは私のほうですね」

 玲奈は素直に頭をさげた。和泉家は和泉グループの礎となる呉服屋を創業した一族で、文明開化の時代から戦後復興、そして現在も第一線でこの国の経済をけん引し続けている。今の首相も和泉家の遠縁であることは有名な話だ。

 秘書という職業でなければ、一般人である玲奈が彼とこんなふうに言葉をかわすことなどありえなかったはずだ。十弥はなんでもないという顔で言ってのける。

「謝る必要はない。むしろいい気づきになったよ。君がそう思っていたということは、世の人間も同じだろう。俺は早急に自身のイメージ戦略を見直さなければならない」

 彼のこういうところは尊敬すると玲奈は素直に思った。十弥は厳しい人だが、そのぶん自分に向けられる批判もきちんと受け止められる人間だ。自分に甘く、人には厳しい人間とは全然違う。
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