聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
「助かるよ~。さすがは秘書室のエース。異動しちゃうなんて惜しいなぁ」
「……おそれいります」

 秘書室のエース。彼らはこの言葉を玲奈に対する免罪符かなにかだと思っているらしい。錦の御旗かのようにかかげて、面倒な仕事をすべて玲奈に押しつけてくるのだ。
 けれど、それもあと少しの辛抱だ。あと半月、十月から玲奈は営業部へ異動になる。異動は玲奈自身の希望によるものだ。秘書の仕事を嫌いになったわけではないが、実力勝負の新しい環境に身を置いてみたいとずっと思っていた。

(来月が楽しみだな。新しい仕事……それに)

 玲奈はメッセージ受信を知らせるランプが点灯しているスマホを手に取った。

【おつかれさま。まだ仕事中かな? もしよかったら、来週の土曜日に食事でもどうかな?】

 メッセージを読む玲奈の目尻は、無意識のうちにさがっていた。差出人の山岸航平は最近知り合ったばかりの男性だが、驚くほどに相性がいい。

 玲奈より三つ年上で、外資系の広告代理店につとめるクリエイターだ。都会的で洗練されていて、玲奈の〝理想の夫像〟をそのまま体現したような人だった。
こ れは運命の出会いかも……と、玲奈は現実主義の彼女らしくもなく胸をときめかせていた。

(新しい職場に新しい恋! ついに私にも幸運が巡ってきたかな)

玲奈の未来は薔薇色に思われたのだが……。
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