聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 九月最終日、異動前日。

「えぇ? ちょっと、おっしゃっている意味が……」

 玲奈は秘書室で丹羽と対峙していた。引き継ぎ作業もすべて終え、あとは荷物を営業部のある八階フロアに運ぶだけという状況だったのだ。それが一転して、丹羽は玲奈に秘書室に残ってくれと言い出した。

 さっぱり意味がわからないし、納得できるはずもない。

「お願いします! この通りだから」

 床に膝をつき土下座しようとしている丹羽を慌てて止めて、玲奈は言う。

「そんなことされても困ります。謝罪されたからって納得できるものでもないですし」

 何度土下座されても、玲奈のさっさとここを出ていきたい気持ちは変わらないだろう。

「とにかく理由を説明してください」

 玲奈は頭を抱えて、丹羽に視線を向けた。彼もようやく冷静に話をする気になったらしい。

「ロンドンの和泉支社長は知ってるよね?」
「会長のご子息の十弥さんですよね。それはもちろん」

 和泉十弥を知らない人間はこの会社にはいないだろう。彼は創業者一族である和泉家の御曹司で現会長のひとり息子だ。血筋だけではなく本人の資質・実力も抜きん出ていて、現在はロンドン支社の社長をしている。
 今、秘書室にいるのは丹羽と玲奈のふたりだけだが、丹羽は周囲を警戒するように声をひそめて話を続けた。
< 6 / 111 >

この作品をシェア

pagetop