契約結婚は月に愛を囁く
「君は平民の、子供を欲しがっている夫婦の家に出された。 そして当然、その平民の家の子として普通に暮らしたのだろう。 ところが成長して、自我が目覚める年齢になった頃にある人物に出会った。 それがもう一人の双子の姉ミアだ」

「そんなの、知らないわ」

「キャンベル男爵は元々は騎士だ。 貴族ではないにしても幸せに育ったはずだ。 そのミアとどこかで出会した君はインスピレーションを感じたのだろうね。 そこから始まったのかもしれない、君の地獄が」

 俺は一つ深呼吸をして、お茶を喉に流し込んだ。

「ミアはね、全てを思い出したのさ。 君に崖から突き落とされて記憶を失った事も、会った事もない親と暮らすようになった事もね」

 アイリスは両手で顔を覆い、次第に声が震えていく。

「どうして? どうして私だったの?」

「君は本当の御両親も、育ての御両親をも恨んだのだろう。 だからキャンベル男爵邸でミアに成り代わった。 ミアからアイリスという名の姉に」

 そう、アイリスの本来の名前はミアだ。
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