契約結婚は月に愛を囁く
 そして本来のアイリスであるはずのミアは記憶を失い、君を育てた親に見付けられ、その家でミアと間違えられた。
 だからミアとして生きて来たのも偶然なのだろう。

 アイリスからすればミアがどうなろうと関係なかったはずだし、寄宿学校で再会したのには驚いただろう。

「私、死に物狂いで努力したわ。 騎士の娘としてアイリスとして絶対に誰にも知られないように。 そしてお父様が男爵になって最初のパーティーに出席した時に貴方やジョルジュと出会ったのよ」

「そうらしいね」

「貴方は幸せそうにメリル様といたわ」

「あの頃の俺はメリルが可愛くて夢中だった」

「えぇ、だから私はジョルジュの婚約者になったのよ」

「最初からそのつもりだったわけか」

「そうでなければ、ただの伯爵家の婚約者になったりしないわ」

 もうすっかり男爵令嬢のアイリスではなくなっている。
 これが本来の彼女の姿だったのか。

「君の姉は結婚して、もうすぐ子供も産まれる。 君の事を知っても、自分がミアではないと知っても、それでも今のまま平民のミアとして生きて行くつもりだと俺に言ったよ」

 あぁ、残酷な未来が君には待っている。

「侯爵子息のヒューゴにミアを襲わせるように唆したのは君だよね?」

 アイリスが欲しがったものは本当は何だったのだろうか。

「憎かったのよ。 あの子は平民として育ったのに、私よりも遥かに貴族らしかった。 私は誰にも愛されないのに、あの子は愛してくれる男がいる」

 それは違うよ。
 君は愛されているじゃないか。
 ジョルジュに、キャンベル男爵に。

「キャンベル男爵はね、ずっと前から気付いていたのさ。 君が本当はアイリスではない事に」

「え?」

「君が犯したミアへの悪意と嫉妬は、全て自分達のせいなのだと。 だから君をミアでもアイリスでもない、もう一人の娘として見る事にした」
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