天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

「……はい」

 やっとの思いで返事をすると、ぽろっと目尻から涙がこぼれ、頬を伝って流れる。

 勇悟はそっと掌でその涙を拭うと、今度は人目を気にすることなく、私に優しいキスを落とした。

「なかったことにするなよ?」

 キスの直後、耳元でひそやかにそう囁かれ、涙目で彼を睨みつける。

「できるわけないじゃん……」

 私はなんとなく悔しくなりながらもそう答え、泣き顔を隠すように彼の胸にすがりつく。勇悟はふっと笑って、私の髪を優しく撫でた。

 あの頃よりずっと大人になり、素直になることを覚えた私たちのバレンタインは、そんな風に終始甘く、幸せな時間だった。


 私と勇悟は翌月のホワイトデーに婚姻届を提出し、夫婦になった。住まいは同じ横浜市内、お互いの実家のちょうど中間地点に、新しくマンションを購入した。

 私が現在健診に通っているのは、お互いの家族の勧めもあり貴船総合病院なので、出産についてもある程度安心している。

 私が健診のために病院へ行くと、勇悟も余裕があれば持ち場を抜けて様子を見にきて、双子の成長を一緒に喜んでくれる。

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