天才外科医と身ごもり盲愛婚~愛し子ごとこの手で抱きたい~

「そういえば、親御さんに連絡は?」
「あっ、忘れてた!」

 慌ててバッグからスマホを取り出し、母あてに【今日は勇悟の家に泊まるね】とメッセージを打ち込む。

 しかし、そう馬鹿正直に本当のことを伝えていいものかと迷う。

 母は面白がるだろうし、母から父に、そして父から貴船さんに伝わり、最終的に聡悟くんの耳に入ったとしたら、いい気はしないよね。まだ、きちんとプロポーズをお断りしていないんだもの。

「なにをそんなに悩んでいるんだ?」
「もっとこう、うまい言い訳はないかなって」
「絢美だってとっくに大人なんだ。変にごまかす必要もないだろう」
「そうだけど……」

 画面を見つめたまま逡巡していたら、勇悟の手がにょきっと伸びてきて、勝手に送信のマークをタップした。

「あっ!」
「時間切れ。着いたぞ」

 エレベーターの扉が開き、勇悟が私の手を引いて通路に出ていく。

 もう、ごちゃごちゃ考えるのはやめ。勇悟と一緒にいたいからついてきたんだもの。その気持ちを偽る必要はないはず。

 私はスマホをバッグにしまい、覚悟を決めて勇悟の部屋へ向かった。

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