腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

それは、ある日突然



「オー、マイ、ガー……」



あまりにもあまりな事態に、純ジャパのはずの私の口から思わずアメリカンなリアクションが飛び出す。



家に帰ったらリビングに置かれているはずのテレビもない、テーブルもない、冷蔵庫もない。



寝室のドアを開ける。買ったばかりダブルベッドも、衣装ケースもない。

ウォークインクローゼットを開ける。ボーナスが入った時に自分へのご褒美として買ったブランド物のバッグや服もない。

フローリングの上には、値打ちのなさそうな私の部屋着や下着、お気に入りのネイルセットなどが無造作に置かれている。


きっと泥棒だ、そうに違いない……。


そう思った私は、震える手でスマホを手に取り同棲中の彼に電話をかける。


「も、もしもしっ、航大(こうだい)っ─────」


『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』


何度かけても電話は繋がらない。そのアナウンスに嫌な予感がして、今度はLIMEのアプリからメッセージを送ろうと試みる。


『unknown』


ユーザー名に表示された文字と無機質な灰色のデフォルトアイコンを見て、私は全てを悟ってしまった。

彼が、婚約者の航大が、全てを持ち出してしまったんだ……。


「なんで……なんで、こんなことに……」


もぬけの殻となったリビングの真ん中で、私は愕然として膝をついた。










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