腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
グラスが軽くぶつかり、軽やかな音を立てる。一口飲むと、鷹峯さんが好みそうなキリッとした辛口が喉を流れていった。後から鼻に抜けるすっきりとしたフルーティーな香りが心地好い。

「ん……美味しい……」

不思議……普段は全然食欲がないのに、今日はたくさん食べられたし久々のお酒も美味しく感じる。

鷹峯さんといるからかな。

「あ、そうでした。貴女に渡そうと思ったものがあるんです」

鷹峯さんは唐突に何かを思い出して、今日買った荷物の中から小さな箱を取り出して私に渡した。

「……これは?」

綺麗にラッピングされた箱と鷹峯さんの顔を交互に見る。

「開けてみて下さい」

言われた通り、私は華奢なリボンをするりと解く。

「わぁ……綺麗……」

箱の中に入っていたのは、ガラス細工のジュエリーボックスだった。蓋部分はプリザーブドフラワーやクリスタルガラスのストーンで飾られ、レストランの明かりを反射してキラキラと光っていた。

ボックスを開けると蓋の内側は鏡になっていて、中には有名な海外ブランドのリップスティックが入っている。

「それ、貴女に似合うと思って。付けてみて下さい」

言われるがまま、私はボックスの鏡を見ながらリップを塗る。それは私の肌にしっくりと馴染んで、元気な頃の自分に近付いたような気がした。

「貴女は、綺麗ですよ」

「っ……?」

鷹峯さんの唐突な言葉に、私は息を飲んだ。

「他人の言葉をいちいち気にする必要はありません。誰の隣を歩くか、決めるのは自分自身でしょう?」

「鷹峯さん……あの時のことっ……」
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