腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

お返し

「う〜ん、やっぱりどう考えても、返しきれない恩を受けてるよね?」

〈そうねぇ……〉

日が経つごとに、あの日のショッピングモールでの出来事は夢だったんじゃないかとさえ思う。

でもあれは確かに現実で、あの日鷹峯さんは私の衣服を買ってくれたし、借金取りの男をぶん殴った上に五百万円の小切手を手渡していた。

〈しかもミシュランで星取ってるような高級レストランでディナーまでご馳走してもらった上にプレゼントまで受け取ったこと、忘れるんじゃないわよ〉

「うわぁ〜そうだった。どうしようどうやって恩返ししたら良いの?」

私はガラステーブルに飾っているジュエリーボックスを指先でなぞりながら考える。

お金は少しづつでも働いて返すとして、とにかく何かしら感謝の気持ちを形にしたい。せめてなけなしのバイト代でお礼をしよう。

「ねぇ春夏、お礼は何が良いかな。お医者さんだからアクセサリーは付けられないし、洋服はいつも高そうなお洒落なものを着てるからあげるのハードル高いよね。あ、いつもスーツで通勤してるし、ベタだけどネクタイとか?」

〈バカね、そもそも付き合ってもないのに身に付けるものなんてあげたら重いでしょ〉

「あ、そっか。確かに」
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