腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

大好き

その途端、やっぱり私は金色の瞳に捕らわれてしまう。

「うそ……だって……」

「嘘じゃありません」

鷹峯さんの手が私の前髪を払う。

「貴女みたいな女性が毎日隣に寝ていて、私がどれだけ我慢していたか分かりますか? それでも最初は、たとえそれが誰でも同じ気持ちになると……ただの性欲でしかないと、そう思っていました」

でも、と鷹峯さんは一度言葉を切る。

「いつの間にか、貴女のいる生活が当たり前になっていった。私は今までセックスだけの男女関係しか知らなかった。でも、それがなくてもこんなに毎日一人の女性(ひと)と過ごせることを初めて知りました。それは貴女だったからこそだと思っています」

「それって……」

言葉の意味がいまいち分からなくて、私はじっと鷹峯さんの顔を見つめた。真剣な顔をしていた鷹峯さんは、ふと困ったような笑みを見せた。それは普段見せる作られた笑顔ではなくて、照れくさそうな、恥ずかしそうな、何だか完璧な鷹峯さんらしくない人間味のある表情だった。

「最初に手を出さないと約束してしまいましたから。貴女が欲しいと思う自分の気持ちを、ただの性欲だと誤魔化し続けていました。誰でも良いから、身体を重ねれば満足するだろう……そう思い美怜からの連絡に応じましたが、彼女と会っても浮かぶのは貴女の顔でした」

頬に添えられた手。ぼろぼろに擦りむいて痛々しい手に、私は感情がぐちゃぐちゃになってその想いが目から溢れ出た。

「好きです。貴女のことが」

「っ……」

鷹峯さんの指先に込められた気持ちが、優しく私の目から溢れた想いを拭う。

「まったく……困った女性(ひと)ですね、何故泣いているんです? 私の気持ちに応えてはくれないんですか?」

私は鷹峯さんの首に思わず抱きついて、それから首を横に振った。

『当然、応えてくれるでしょう?』

そう言わんばかりの確信めいた言葉に、悔しいけど否定はできなかった。

鷹峯さんがまた困ったように笑ったのが気配で分かった。彼の腕もまた、私の背中をしっかりと包み込んでくれる。

「私も……」

私も、あなたに伝えたい。

「好き、です……好きですっ……」

鷹峯さんのこと。

「いつの間にか、すごくすごく好きになってて……でも、私みたいなのを鷹峯さんが好きになるわけないってどこかで諦めていて……」

鷹峯さんの気持ちに、応えたい。私の気持ちをちゃんと伝えたい。

「私、鷹峯さんのことが大好きですっ……!」








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