腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

相変わらず

あれから数ヶ月。私は相変わらず鷹峯さんのおうちで今まで通りの同棲生活を送っていた。

「お風呂お先です」

私はいつものごとく至るところを拭き掃除して回っている鷹峯さんに声をかける。

「ええ、聖南。はい、ココアどうぞ」

変わったことといえば、鷹峯さんから名前で呼ばれるようになったことくらい。私はそれにいちいちドキドキしていて、自分は鷹峯さんを名前で呼ぶことができずに結局『鷹峯さん』のままだ。

「ありがとうございます〜」

目の前に置かれたのは鷹峯さんとお揃いの白いマグカップに淹れられたホットココア。最近は秋も深まってきて温かいココアが身に染みる。

「あ、そうだ。チョコも買ってあったっけ」

私はお酒の並ぶ食器棚の引き出しからチョコレートアソートを出してくる。その中から適当に三つ取り出す。

ミルクチョコレートが二つと、ブラックチョコレートが一つ。

それを持って、リビングのテーブルに着く。

「私の〜恋は〜ブラック〜チョコレート〜♪」

「何ですか、その変な歌は」

あ、鼻歌聞かれてた。

「別に? 過去の嫌なことはぜ〜んぶ、ブラックチョコレートなんです。人生のスパイスってこと。可愛いでしょ?」

「良い歳して何言ってるんですか」

飽きれたように笑ってみせる鷹峯さん。前よりも随分と素の笑みを見せてくれる機会が増えた気がする。
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