ファーストソング

2

「ここ! 先生にお願いして用意したんだ!!」

そういいながら私を最前席の真ん中へと案内した。
た、確かにめちゃくちゃいい席だけど本当にいいのかな?
そう思いながら夏輝に押されるまま用意された席に移動する。


「出番はすぐだからさ! 確か時間ギリギリ分しか入れないんだよな?」
「そうだね」
「よっしゃ! 時間ピッタリに始められるようにガンバリマス!」
「頼むよ?」
「サー! イエッサー!」


夏輝が手をぶんぶん振りながら去っていく。
私は小さく答えながらきょろきょろとあたりを見渡した。
同年代の子たちが楽しそうにしている。


「…いいなぁ」


つい口から零れ落ちた。
長年しまってきた感情。
私がもう少し健康だったら、もう少し生きることができたら学校に通えていたかもしれない。


「じゃあさ着てみる? うちの制服!」
「え?」


唐突に話しかけてきたのはさわやかなイケメンさん。


「俺、夏輝の友達の慎太郎! アイツからよく千冬ちゃんのこと聞いててさ。 実際に会ってみたかったんだよな!」


夏輝が私のことを?


「私千冬です。 夏輝から聞いているって…?」
「ん? すっげぇ可愛い彼女がいるって話!」
「っ!」


そ、そっか。
すっげぇ可愛い彼女…。
嬉しい…!


「文化祭って結構中学生がくること多いんだよ。 高校選びの一つとして見に来てるって感じ!」
「そうなんだ」
「そうそう! だからその子たちように制服の試着会みたいなのがあってさ! ぜひどうかなって!」
「えっと…、うれしいんだけどこの状態でも着て大丈夫かな?」


私は車いすをぽんぽんっと軽くたたいた。


「全然大丈夫! 着替えるのは女子が手伝ってくれるし! 試着室はすぐそこだから! 千冬ちゃんがよかったらぜひ!」
「じゃあ、その、お願いしてもいい?」
「おう! 試着会一名追加でーーす!!」


そういうと慎太郎は車いすを押し始めた。
< 93 / 93 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:0

この作品の感想を3つまで選択できます。

この作家の他の作品

孤独と孤高にサヨナラを

総文字数/6,998

恋愛(ラブコメ)17ページ

表紙を見る
美青年幼馴染には恋人がいない。

総文字数/14,568

恋愛(純愛)16ページ

表紙を見る
ネイチャードリーム

総文字数/9,170

恋愛(ラブコメ)3ページ

表紙を見る

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品をシェア

pagetop