母が恋に落ちたとき……
17時。

仕事を終えた私は、スーパーに寄り、買い物をする。

今日は長女が食べたいって言ってた麻婆豆腐にしよう。

豆腐と挽肉と……

材料を次々とかごに入れていく。

支払いを済ませると、急いで家路に()く。

「ただいま」

私が玄関を開けると、

「おかえり」

とリビングからかわいい声がする。
次女の美結(みゆ)だ。

「お姉ちゃんはまだ?」

私は冷蔵庫に買い物したものをしまいながら尋ねる。

「うん」

美結は宿題のドリルをやりながら、答える。

すると、ふと顔を上げて、

「お母さん、あのね、今日ね……」

と話し始めた。

来た来た。
いつものマシンガントーク。

10歳5年生の美結は、私が帰るまで1人で留守番しながらちゃんと宿題も出来るいい子だけど、女の子だからなのか、話したいことがたくさんあって止まらなくなる。

友達のこと、先生のこと、1日の出来事を全部吐き出そうとするかのように話していく。

「美結、手が止まってるわよ。勉強終わせてから、話したら?」

私がそう言うと、美結はハッとしたようにおしゃべりをやめてノートに向かう。

けれど、3分もしないうちに、またおしゃべりを始める。

これはもうしょうがないのかな。

私は苦笑いをこぼしつつ、晩ご飯を作りながら、次女の話を聞く。

そうこうしているうちに、13歳中学2年生の長女が部活動を終えて帰宅した。

女子が2人揃うと、にぎわしいことこの上ない。

私は娘たちの話に相槌を打ちながら、家事をする。

19時を回り、主人も帰宅した。

家族揃っての夕食。

円満な家庭。幸せな家族。

(はた)からはそう見えるだろう。

実際、そうだと私も思うし、家族全員がそう思ってるに違いない。


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