離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 政略結婚、を強調され、嫉妬心や敵意も相手の声からにじみ出ている。
 また、黎人さんに裏切られた気持ちでいっぱいになり、私は耐えきれずに電話を切ろうとした。
 すると、その空気を察したのか、相手はすかさず煽るように発言してきた。
『また逃げるんですか? 前回と同じように』
 逃げるって……、いったい何から? 何でそんなことを言われなくてはならないのだろう。
 完全にけしかける気でいる相手に、気持ちが氷点下まで下がっていく。
 彼女が、黎人さんとどんな関係なのか、改めて確認する気にもならない。
 もう、そんなこと、どうでもいい。
 こんな、いくらでも予想できた“あるある”のような裏切りに、私はちゃんと深く傷ついてしまった。
 つまり、政略結婚は、それほど自分には向いていなかった、ということ。
 ただ、それだけのことだ。
「あなたは、黎人さんに好意を抱いているんですね」
『……ようやくちゃんと声が聞けましたね』
「でしたら、私たち、離婚するので、どうぞおかまいなく」
『えっ……?』
 そこまで伝えると、私はぶちっと電話を切った。
 そして、そばにいた小鞠のことをぎゅっと強く抱きしめた。
「まーま?」
「小鞠……っ」
 あの女性が愛人だろうとそうでなかろうと、もうなんだっていい。
 黎人さんには傷つけられてばかりいる。
 あの日、私はもう、自分のことしか信じないと誓ったのに――バカだ。信じたりするから、裏切られたときに傷つくのだ。
 泣きたい感情を押し殺すように、愛しい娘の小さな体を抱きしめる。
 私が感情を押し殺して過ごせば、すべてが丸く収まる話だ。そんなことはとっくに分かっている。
 でも私は、そんなに自分を殺せない。私は私の人生をちゃんと歩みたい。娘のためにも。
 だったらいっそ――。
「復讐する……」
 裏切られ悲しい気持ちが、形を変えて、怒りに変わっていく。
 その怒りの矛先は、見知らぬ女性なんかではなく、黎人さんだけに向かっていく。
 そうだ。どうせなら、この同棲の機会も利用してやろう。
 ものわかりのいいふりをして彼と同棲し、もう一度私から捨ててやればいいんだ。
 「向き合ったけれど無理だった」というていにして、彼を悪者に仕立てればいい。そうすれば、私に対する周囲の評価も変わってくるだろう。
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