離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
 彼女は最近ますます仕事量を増やしていて、小鞠はベビーシッターに預けて仕事に精を出している。
 まるで、俺に少しも隙を与えないようにしているかのように。
 シアトルに発つ前と同じようなすれ違いの結婚生活に、花音は今、何を思っているだろう。
「なんか顔色悪いけど、働きすぎじゃない? 倒れないようにね」
「大丈夫だ。働きすぎはお前もな」
「兄さんほどじゃないよ。会場までの運転、気をつけて。じゃあ、また後で」
 そう言って、仁はひらっと手を振って部屋を出ていった。
 秘書なしで働いている俺を、アイツなりに心配して様子を見に来てくれたのだろうが、今日は本当に助けられた。
 俺はイベントまでに全ての仕事を片付けようと、眉間にしわを寄せながらパソコンと向き合う。
 しかし、突然ぐわんと景色が湾曲して、俺は思わずぎゅっと目をつむった。
「っ……、またか」
 仁に言われたからなのか分からないが、最近眩暈が多いことに気づいた。立ち上がる時は必ず立ち眩みがする。
 鈴鹿の埋め合わせをしていたせいで、知らず知らずのうちに疲労が溜まっているのかもしれない。たしかに、いつもと比べて一・五倍は忙しくなっている。
 今日はイベントを終えたらすぐに帰宅しよう。
 そう心に決めながら、会場で花音に会ったらどんな話をしようか、考えあぐねていた。



 鶴の大きな絵画が舞う吹き抜けのホールに、三百名あまりの関係者が集まった。
 一流のシェフたちがその場で和洋中様々な料理をふるまい、ライブ感に溢れたイベント会場となっている。
 立食式なので、各スペースに置かれた丸テーブルを囲いながら、名刺交換や挨拶がひっきりなしに行き交っていた。
 俺も、少し時間に遅れつつ、社員にアテンドされながらそんな騒々しい会場に到着した。
「三鷹代表、いつもありがとうございます! これからもどうぞうちを御贔屓に……」
「ぜひ弊社の新商品をご提案させてください!」
「挨拶させたい社員がいるのですが、少々お時間頂けませんでしょうか」
 会場に入り数メートル歩くだけで、各関係者から名刺が飛んでくる。
 立ち止まり全てに対応しながら歩いていると、いつまで経っても花音は探せそうにない。
 今日はひとりで来ると言っていたけれど、変な奴に絡まれたりしていないか、心底不安だ。
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