離婚するので、どうぞお構いなく~冷徹御曹司が激甘パパになるまで~
「大丈夫、大丈夫……」
 私は自分の顔をパンと叩いて、涙をぐっと拭うと、もらったお免状を抱きしめた。
 黎人さんも私も、もう自由にならなければならない。きっと……“いい機会”だったのだ。私は結局、外の世界を知らない箱入り娘で、黎人さんは縛られずに自由に生きていきたい人。
 世間知らずな自分と、自分を裏切った黎人さん……どちらにも失望する。
「離婚する。誰が何を言おうと……」
 自分の声とは思えないくらい低い声が、自然と出た。
 私は私の人生を歩んでいく。
 そう決めたとき、急激に吐き気が襲ってきて、私は手で口をふさいだ。
「うっ……」
 今までに体感したことのない気持ち悪さだ。
 思わずその場に崩れ落ちそうになったが、私は気力を振り絞り洗面所へと向かう。
 そういえば、最後に生理が来たのは、いつだっただろうか……。
 試験にいっぱいいっぱいで、ストレスで遅れているのだろうと思っていたけれど、黎人さんと体を重ねた日が頭にちらつく。そういえば、花の匂いにここ最近妙に敏感になっていて、とくに甘い花の香りで気分が悪くなることもあった。今までそんなことは一度もなかったのに。
「まさか……」
 まさか、こんなタイミングで……?
 私は混乱に陥りながらも、そっと自分のお腹に両手を添えて、宿っているかもしれない命を撫でる。
 瞼の裏には、氷のように冷たい黎人さんの顔が、ぼんやりと浮かんでいた。
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