俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい



「チッ」

倉瀬は女を忌々しく睨むと不機嫌に舌打ちした。

(とんだ失態だ)

倉瀬は毒づく。だがその気持ちに倉瀬自身戸惑いもある。

(くそっ、何だっていうんだ)

よくわからないぐちゃぐちゃとした感情は倉瀬の中で不快なものとして渦巻く。

倉瀬は今まで何不自由しない生活をしてきた。それは交遊関係においてもそうだった。

倉瀬が望めば女なんてほいほい寄ってくるし、いつだって適当に遊べて適当に別れられる。誰かを気遣う気持ちなどない。自分が満足すればそれでいい。だから自分はこれからもそうやって生きていくのだろうと疑っていなかった。

なのに。

(くそっ、奈々!)

今、倉瀬の頭の中を支配しているのは間違いなく奈々だった。女に絡まれている姿を奈々に見られたことが悔しくてたまらない。

(……まさか俺が奈々を?)

自分の気持ちに整理がつかず、自問自答を繰り返す。奈々の存在は倉瀬の心を掻き乱し続けた。

歓迎会のとき、奈々の花が咲いたかのような笑顔は倉瀬を釘付けにした。思えばあの時から奈々を意識し始めたのかもしれない。

真面目に仕事をこなし誰にでも丁寧で親切で、倉瀬にも物怖じせずに意見する。決して女を使うことなく、媚びることもなく、自然体で倉瀬に接してくる奈々を、いつしか倉瀬は“愛しい”と思うようになっていた。

衝動的にしてしまったキスも後悔はしていない。奈々があまりにも愛しく思えて体が勝手に動いてしまったのだ。

(くそっ、こんな気持ちは初めてだ)

今だって、どうでもいい女と一緒にいるところを見られたことが不快でたまらない。奈々には清廉潔白なところを見せたいとさえ思った。

「この俺が?マジかよ」

自然と漏れ出た声に倉瀬は思わず苦笑いした。だが足は勝手に奈々を追いかけていた。

一人の女に心を奪われる日がこようとは誰が想像しただろう。
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