俺様御曹司は無垢な彼女を愛し尽くしたい
そんな気持ちとは裏腹に、心臓はドッキンドッキンと音を立てている。自席に戻ってうるさい心臓をなだめていると、隣の席の朋子がこそっと耳打ちしてくる。

「さすが奈々。社長の息子でも容赦ないね。私なら言えないわ」

と、感心しつつも茶化してくる。

「だって、仕事は仕事でしょ。やることはやってもらわないと……」

「奈々は生産管理課の裏ボスだもんね」

「やめてよ朋ちゃん。そんなんじゃないってば」

奈々の庶務業務は、相手に何かをお願いすることが多い。期限までに回答をもらわないといけないものや、取りまとめるもの、そういった仕事に責任を持ってこなしているため、必然と人をフォローすることも多くなる。フォローされた社員は奈々にペコペコするものだから、まるで奈々に頭が上がらないように見える。そんなわけで、朋子は冗談で奈々を「裏ボス」などというのだ。

しかし、そんなことで感心されても困る。社長の息子だから何だというのだろう。仮にも今は勉強中の身なのだから、偉そうな態度を取るなら社長になってからにしてほしいものだ。

(あ、でもそんな偉そうな社長も嫌よね……)

自身にツッコミつつもモヤっとした気持ちは晴れないまま、奈々はいつも通り真面目に仕事に取りかかった。

< 7 / 112 >

この作品をシェア

pagetop