虹色のキャンバスに白い虹を描こう
データを遡っているらしい。彼は独り言を呟きながら首を捻っていたけれど、まあいいや、と顔を上げた。
「しっかし、これは物凄くレアな虹だ。条件が揃わないとなかなかお目にかかれない」
通常の虹ですら、見かけるとラッキー扱いだ。白虹は更に珍しくシビアなものだということは、事前情報で知っていた。
霧虹というくらいであるため、もちろん霧が出ていないと話にならない。そして太陽の光が射すことも必要だ。山ではその条件が比較的揃いやすいという記事を見て、今日の山岳観光を思いついたのである。
「航先輩、あの……もしかして」
清がゆっくりと僕を見上げた。彼女が言わんとしていることは、何となく分かる。
『私は、二色の虹しか見たことなくて……』
他でもなく、彼女のためだった。清の話を聞かなければ、こんなことをしようだなんて思わなかっただろう。僕の今の原動力は、間違いなく彼女である。それは否定できないのだ。
「虹なんて何色でもいい。七色だろうが二色だろうが――ましてや一色でもいい。君が見た虹は、これから見る景色は、何もおかしくないんだ」