虹色のキャンバスに白い虹を描こう


虹色のキャンバスなんて存在しないのだ。きっと誰のキャンバスだって未完成で、でも僕らは、自分から見える世界を完璧だと信じ込んでいる。目に見えるものが、全てだから。

それなら清、君のキャンバスだって虹色でもいいんじゃないのか。虹色の定義も、完璧の定義も、誰かが決めつけるものではないと思うのだ。

君が「虹は二色だ」と言ったらそうだ。「虹は白い」と言ったらそれで違いない。
君だけではなくて、誰がそう言っても当たり前のように許容される世界を、僕はつくりたい。


「すごーい! たかーい! 航先輩、見てますかー?」


雲が溶けていく。青い空に吸い込まれるように、清の体が宙を舞う。ふわりと彼女の毛先に風が乗って、光が反射した。

眩しくて、ひたすらに青い。

シャッター音が耳のすぐそばで鳴ったのは、その時だった。
目を横に滑らせると、隣の彼が僕にカメラを向けている。


「ごめんね。あんまりいい顔をしているものだから」


そう詫びて、近江さんはゆっくりと腕を下ろした。彼の首にかけられたストラップが、名残惜しそうに弛む。


「カメラを、貸してもらってもいいですか」

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