【1/2 英語版③巻オーディオブック発売・電子先行③巻発売中】竜の番のキノコ姫 ~運命だと婚約破棄されたら、キノコの変態がやってきました~ 第2章
15 五人の王子
「そういえば、まだきちんと紹介していなかったな。私は第一王子……王太子のグザヴィエ。隣は妃のゼナイドだ」
 共に黒髪の王太子夫妻に微笑まれ、アニエスは慌てて頭を下げる。

「それから隣が第二王子のジェローム、その隣が第三王子のアルマン。端が第五王子のシャルルだ」
「アニエス・ルフォールです。よろしくお願いいたします」

「うん。クロード兄様の番なんでしょう? 綺麗な人だね」
「――き、綺麗?」
 シャルルが金髪を揺らしてにこりと微笑むのを見て、アニエスはびっくりして固まる。
 それと同時に、シャルルの腕にキノコが生えた。

 淡紅色の傘が可愛らしいキノコは、サクラターケだろう。
 国王に引き続いて、第五王子にまでキノコを生やしてしまった。
 しかも、また毒キノコだ。
 いくら国王が許してくれたとはいえ、このままでは王族をキノコまみれにしかねない。

「わあ、ピンクのキノコだ! クロード兄様、いる?」
 面白そうに眺めたシャルルは、そう言うとキノコを勢いよくむしり取る。
「待て、シャルル。あまり乱暴に扱うな。キノコは繊細で美しい生き物なんだぞ」
 席を立って届けに来てくれたシャルルからサクラターケを受け取ったクロードは、大事そうにそれをポケットに収めた。


「わあ、近くで見ると更に可愛い。その髪、本物でしょう? 凄いな、触ってみてもいい?」
 間近に見るシャルルは、さすがクロードの弟だけあって眩い美少年だ。
 その美少年に可愛いだの、綺麗だの、触るだの言われ、アニエスはちょっとした混乱状態に陥っていた。

「見るのはいいが、触るのは駄目だ」
 伸ばしかけたシャルルの手をつかんだクロードは、そう言って手を押し返す。

「えー、ケチ。まあ、いいや。僕はシャルル。よろしくね、アニエス姉様」
「ね、姉様……」
「シャルル、まだ気が早い」

「えー、でも番でしょう? どうせクロード兄様は他の女性に目移りしないんだし、今から呼んでも問題ないよ。ねえ、アニエス姉様。いいよね?」
 美少年の無邪気な笑顔とおねだりの威力が凄い。
 逆らえる気がしない。

「……はい」
「ほら。本人もいいって言ってるよ」
「シャルル、ほどほどにしろよ」


 成り行きを見守っていた橙色の髪のジェローム第二王子が、呆れたようにため息をつく。
 すると、それに鉛色の髪のアルマン第三王子がうなずいた。

「正式に婚約するまでは、番であることは公表しません。だから扱いも普通の貴族令嬢と同じです」
「はいはーい。兄様達も、さっさと婚約したら?」
 少し揶揄するようなシャルルの物言いに、ジェロームが再びため息をつく。

「竜紋持ちでない以上、自分の勝手では決められん。ならば、せめて自由な時間をもう少し謳歌してもいいだろう?」
「ジェローム兄上、その言い方はどうかと思います。竜紋持ちもまた、縛られているでしょう」
 アルマンの指摘に、ジェロームは大袈裟に肩をすくめてみせる。

「堅苦しいんだよ、アルマンは。大体、おまえも同じ境遇だろう、シャルル」
「僕はまだ子供だし?」
「もう十五歳になっただろう。いつまでもそれで逃げられないぞ」
 じろりとジェロームに睨まれたシャルルは、慌ててクロードの陰に隠れる。

「クロード兄様。ジェローム兄様がいじめるよー」
「何にしても、いずれシャルルにも婚約の話が来ますよ」
 アルマンにも指摘され、シャルルは不満そうに唇を尖らせた。


「……そういえば、フィリップはどうした?」
 グザヴィエの問いに、王子達は皆首を振る。

「ここひと月ほどは、社交をしていないみたいだぞ」
「まったく。端くれとはいえ、王族の自覚が足りませんね」
「いないといえば、セザール叔父様もいないね」
「あっちは、いつもの体調不良だろう?」

 シャルルはアニエスに視線を移すと、少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「クロード兄様は、番が見つかって良かったね。どうにか、叔父様にも見つからないかな」
「大半は成人前に出会うといいますから……。まあ、出会えればそれに越したことはありませんね」
 アルマンの言葉にうなずいたシャルルは、クロードとアニエスを交互に見つめる。

「そういう意味でも、アニエス姉様は大切な女性だよね」
「――さあ、そろそろ舞踏会に向かおう。私とゼナイドは挨拶しなければいけない人がいるんだ」
 そう言って席を立つ王太子夫妻に続いて、ジェロームとアルマンも立ち上がる。

「俺も用があるから、先に行く」
 いち早く扉を開けて外に出たジェロームに、何やら使用人が話しかけているのが見えた。

「……シャルル。陛下がお呼びだとよ」
「ええ? 何で?」
「婚約の話じゃないのか?」
 にやりと笑って退室したジェロームを見て、シャルルが目に見えて慌て始めた。

「ええ? どうしよう、グザヴィエ兄様一緒に来てよ」
「私はゼナイドと挨拶があると言っただろう」
「……仕方ありませんね。一緒に行ってあげましょう」
「うわあ! アルマン兄様、ありがとう!」
 賑やかに退室する王族を見送ると、アニエスの口から息が漏れた。


「騒がしくてごめんね、アニエス。少し休もうか」

 そう言ってクロードに連れられて到着したのは、以前にも来たことのある王族専用という庭だった。


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【今日のキノコ】

サクラタケ(桜茸)
淡紅色の傘を持ち、湿気を帯びると長い条線が見えるようになる。
見た目はピンクの可愛い姿だが、指でつぶすと大根の匂いがするギャップ系キノコ。
味はないが、胃腸系・神経系の毒を持つ……大根の匂いだからいけると思ったのだろうか。
アニエスが綺麗と褒められたので、嬉しくなって生えてきた。
自身の傘がアニエスの髪と同じピンク色であることを自慢に思っている。
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