目覚めたら初恋の人の妻だった。
翌朝、目を覚ますと一那の腕の中にスッポリおさまっている。
これは・・・不味い・・・幾ら夫婦でも私の記憶は高校生だ。
どうしてこんな事態になっているのかと昨夜の記憶を手繰り寄せるが、
食後、ソファーで座ってお茶を飲む予定で・・・一那がお湯を沸かしに
立ったまでは覚えている・・
まさか、寝落ち????

非情に不味い。

この腕の中からコッソリ逃げ出せないかとユックリ動くと

「うんん・・」とくぐもった声が聞こえる。

ハッとして目を覚ましたのでは?と顔を覗くと目の下に
薄っすらと隈をみつけてしまい、私が事故にあってからの心労が
滲んでいた。その隈を見ると自分の身勝手で動いて起こすのは
悪いと思う感情が湧きあがったの嘘じゃないけれど
それ以上にこの腕の中が心地よくて、出たくなかったほうが
強かった。
当たり前の様に腕の中に居るわたし。
一那にとってこれは当たり前のことなのだろうか?
私はいつもこうやって毎朝、恋焦がれた人の腕の中で目覚めて
いたのだろうか?

全くに記憶に無い天井、シーツもカーテンも私好みではあるけれど
私が選んだ!と断言は出来ない。

「いつまで眺めているだけなの?」
フイに聞こえた声に驚くとさっきまで寝ていたのにハッキリと私を
覗き込んでいる双眸に慌てて腕の中で暴れると
「キス待っていたのに~」
私の額に唇を落とす。
「ふぇ~」変な声が出てしまうのは朝日のせい。
「こんな明るい時にキスなんて・・」
「ククク 柚菜は何を言っているのかな?毎朝、キスをせがんでいたのは
君だよ・・」
「わ わ わたしが~~~」
「そう! 柚菜が毎朝 どんなに喧嘩していてもキスしよう。
そうしたら自然に仲直り出来るからってね。
そうは言っても翌日に持ち越すような喧嘩なんてした事ないけどね。」

昔の私、恥ずかしい・・・・
でも、解るな~ 今の私もキスしたいと思っていたもん。

「善処します・・・」
「なにそれ、固い。 もっと普通に話してよ。」
「無理・・・だって私の頭の中は高校生で、余り会話もしていなかった
頃の記憶しか・・・・」
「フ、確かに高校生が朝っぱらからキスをしてくるのも問題だ」
笑いながらも目は傷ついている。

ゴメン、思い出せなくて。不甲斐ない私で。

そんな雰囲気を感じ取ったのか
「うん~~~」と思いっきり伸びながら一那はベッドから起き上がり
又、私の額にキスを落としながら
「もう少し 寝てな。」
「何処に行くの?」
「シャワー浴びるの・・毎朝の俺の日課。」
そうなんだ・・・覚えておこう。
忘れてしまったのなら 1つ1つ 又 記憶にとどめよう。

だって、この腕の中に居たいと切に願った私を否定したくなかったから。


朝ご飯はコンシェルが届けてくれていた。
本当に至れり尽くせりな環境・・・
シャワーを浴びて、少し濡れた髪に、胸元にドキリとした感情を
隠すように、朝食の話をふる。
「毎朝、こうだったの?」
「うん? 朝ご飯のこと?」
「そう。」
「毎朝じゃないけれど柚菜が仕事で忙しくてダウン寸前の時や
体調が悪い時は利用していたよ。
なんせ共働きですからね。」
最後の科白は少しおどけた口調だったのは
もしかしたら以前も同じような会話をしたのかな?って思った。

なんとなくだけれど、一那の口調の変化がどう言う時に変わる取っ掛かり
のようなモノが解ってきたかもしれない・・・・

「私、甘やかされていたんだね。」
「そんな事は無いでしょ? 柚菜は本当に忙しそうだったよ。
案件の資料を読みふけって俺が帰って来たのを気がつかなくて
何度も椅子から落ちそうになっていたよ。」
「?????」
「座って  」
ダイニングテーブルの椅子に座ると、後ろから一那が頭にキスを落とす。
「へぇ????」
「何時もは玄関まで迎えに来てくれるんだけれど、熱中すると気がつかないで
ここで没頭しているから、こうやって帰って来たアピールをするんだよ。
絶叫マシンは大丈夫だけれど、これには何時も椅子から落ちそうに
なるくらいに驚くんだ。」
「そ、そりゃあ 驚くでしょう???」
「これからもやるからね 覚悟していてね。」
「え~ やるの?」
「やるよ~ だって その時の顔がたまらなく可愛いんだから 
止められないよ」
さらりと恥ずかしくなるような科白を口にする。
私は真っ赤になって動揺しているのに、全く平然としている姿をみていると
一那はこんなに甘い人だったのか・・・私以外にも???
一瞬、浮かぶ負の感情を隅に追いやる。
今は、この瞬間は私だけの一那で居て欲しい。

心の隅に一瞬だけ過ぎる罪悪感に気がつかないフリをする。

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