目覚めたら初恋の人の妻だった。

昔、確実にカズ兄から一那になったのは付き合って2年以上が経った
司法試験の合格を貰った後だった。

ナポレオンパイで釣って一度は言わせたがその後も今みたいに中々
呼ばない状況に焦れていたが
その日、お祝いを2人でしたあと、スイートルームをリザーブしていた。
無理強いはしたくなかったけれど、俺を柚菜の意志で選んで欲しくて
大人げないと解っていてもテーブルに車のキーとルームキーを置いて
選んで貰った。
躊躇う事も無く、ルームキーを手にした柚菜を見た時に
どんな事があっても、この手を離さないと心に決め、
俺のモノになってくれる覚悟を持った柚菜は凛々しくて綺麗で後光が射していた
その姿は脳裏から一生消えないだろう。

デザートが食べかけだったけれど我慢出来なくなって
強引に手を引いて店を出た。ホテル内のレストランでエレベーターに
乗るだけで部屋に着くのに、エレベータが昇降している時間さえ
永遠に感じるくらいに身体が熱く10代の様に浮かれていた。
何度も、何度も貪るようにエレベーターの中でキスをし、蕩けてグズグズに
なった柚菜の口から
「か ず な・・・・」
そう何度も何度も女の声で言われてから一那と躊躇いも無く口にしてくれていた。

唇にキスをするまでに1年。
あのキスを目撃したのも原因かもしれないが、柚菜は何処か俺との距離を
置いているように感じていた。
きっと、兄妹の気持ちしかなかったからなのかもしれない。
だからこそ、じっくりユックリ時間を掛けて俺が男と意識してくれるように
してきた。
衝動的に何度もその唇を奪おうと思った。でも、逃げられたら最後 2度と
手に入らないと解っていたから。
それが、あの夜 漸く手に入れたのに。

今、又 デジャブのように同じ感覚に陥っている。
俺を忘れてしまった柚菜。
もし、強引な事をしたら俺に対する不信感で一杯になってしまうのでは
そう思うけれど、触れたいと言う欲求も頭を擡げる。結果 寝ている時に
自分のモノと印を散らす。
女々しいとは承知しているが、これ以上の得策を思い付かず、その首筋に
唇を這わす。早く思い出してと願いながら。
思い出す為ならなんでもする。
忙しくても休日にはデートを再現する。
それが負担になっているなんてこの時は気がつきもしなかったし、思い出した
事によって距離が拡がるなんて想像も出来なかった。

記憶が無くて触れられない事は寂しいが、デートの再現は楽しかった。
当時の自分では伝えられなかった想いも口にする事が出来たし、
何よりも柚菜が俺から離れないって言う自信が後押しをし、
あの時以上に幸福に浸れた。
手を繋ぐのも肩を抱き寄せるのも、髪の毛を掬って弄び、毛先にキスをするのも
あの頃の拙い自分とは違う。
もっと触れたい、もっと求められたい、もっと、もっと 柚菜に自分だけを見て
自分だけの事しか考えないで貰いたい。
自分が居ないと息も出来ないほどに溺れて貰いたくて思い付く限り甘やかす。
俺の甘えに慣れて俺無しじゃ生きられなくなって欲しい。

でも、その考えは全て俺のエゴでしかなかった。





自分だけが空回りしている。
そう感じたのはどのタイミングだったんろうか?
再現するデートで柚菜が戸惑う瞳を見せる様になったのは
あの頃よりもスマートにエスコートし、想いも口にしているのに
あの頃のようなキラキラした、自分にだけ見せてくれた笑顔でなく
そう、あの避けられていた頃のような感情の無い笑顔になって
しまったのは。

仕事で遠出が出来なくて再現が出来ない事を話すと、
安堵の表情を垣間見る様になったのは、気のせいでは無い。

嫌われている訳では無いとは思うのだけれど・・・・

なんで柚菜がそんな表情をするのか全く見当もつかなかった。

もしかして、俺と出掛けるのが、一緒にいるのが耐えられないのか?

聴けば簡単なのにアイツの影に怯える俺は口を噤んでします。

この時点で俺は新しく柚菜と約束した何でも話し合うと言う
約束を反故にしていたのさえ気がつかなかった。

だって仕方ないじゃないか・・・
男だけと年上だけど、余裕があるふりをしているけれど本当は一杯一杯で
柚菜が関わると臆病者なんだから
問い質して間違いを引いてしまって柚菜を失ったら
立ち直れない。
だから本能で言葉を呑み込む。
























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