目覚めたら初恋の人の妻だった。

朝、目覚めると隣で小さな寝息を立てて寝ている、その後ろの首筋を
強く吸う。
雪よりも白いその肌が赤く染まったのを確認することで心が満たされる
毎日、毎日飽きることなく同じ位置に落とす独占欲の証。

誰にも渡さない。

柚菜が事故に遭う前は何時も肩甲骨の天使の羽の部分に花びらを散らしていた
本当の羽のように・・・
でも、記憶が無い今、柚菜を抱くのは取り返しのつかない事態を
招いてしまうような気がして、寝ている隙にここに毎日、性懲りもなく
跡を残す。
義母は気がついているかもしれない。
でも、止められない執着。

2人で生活していても以前の柚菜じゃない。
姿形は大人なのに心は高校生のまま。
俺を夫としてどころか恋人とも思えていないのは、触れる度に
跳ねる肩が物語っている。
それでも少しずつ距離を縮めて頬や額、頭にキスをするのを日常化するまでに
漸くなった。
本当はその可愛らしい唇に、それだけじゃなく口内を自分の舌で犯したい。
柚菜が零す唾液すら自分のモノなのに・・・堪能できない苦しさ、もどかしさ。

優しいお兄ちゃんだと思っているのにこんな事を考えているなんて知られたら
多分、心は開いてくれない。だから同じベッドに寝ているのに触れられない
苦しみに、辛さに毎晩苦行のように耐えている。
煩悩だらけの自分に喝をいれて。

そんな邪念で一杯の耳に「うん~~~」とくぐもった声が届き、
現実に引き戻される。
あ、起きる・・・慌てて絶対に見えないのに首筋に艶やかな少し茶色い
髪の毛を戻す。

何も無かったように柚菜の背中に顔を埋める。
柚菜の香りが鼻孔をくすぐり、幸せだと感じる瞬間。
それも腕の中でモゾモゾと少し動き出すのが解ると、至福の時が終わりを告げる
時間だと・・寝起きの悪い柚菜が覚醒するまでの残り数秒を
「俺の想いは重すぎる」
と心の中で呟きながら思いきり堪能する。

両親ですらこの重すぎる想いに気がついてはいないだろう。
ERの前で何時間も開かない扉を見つめながら柚菜が居なくなったら
どうやって後を追うか・・・そればかりを考えていたのは誰も知らない。
柚菜が隣に居ない人生なんて存在する意味も無い。
どうせ屍のようにしか生きれないのは自分が一番解っていた。だったら
この世に未練なんてある訳がない。
抱いていた柚菜の身体がピクリと膠着し、完全に目を覚ましたのが解るが
寝たふりをする。
最初は俺が起きる前に何とか出ようとしていたが、日々の積み重ねの成果か
身体は緊張させるが、逃げようとはしなくなって、少し、柚菜も楽しんでいる
ような気がする。
で、暫くすると優しく回している俺の腕を撫でながら
「ねぇ、起きて・・・」そう呟く。
でも、今朝は少しだけ違った。
「ねぇ、起きて・・」身じろぎもしないでその声色を楽しんでいると
「一那・・・・」小さな小さな声で呟いた。
あ~ 漸く呼んでくれた・・・ナポレオンパイで釣ったが、あれ以来
何時も何時も 「ねぇ、」「あのね」って頑なに呼ばない俺の名。
カズ兄でも無く、カズ君でもなく 一那  そう呼んでくれて涙が出そう
だった。
もっと、もっと呼んで欲しいい。
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