目覚めたら初恋の人の妻だった。
踏み出そう
記憶を失った自分を少しずつ受け入れて来た9月。

自分が何をすれば良いのかの漸く目標を立てられ始めた
弁護士資格を有しているとはいえ見習いも見習いだし
司法研修性だった頃の記憶は無い。

なので、父の法律事務所で無料で相談を受ける事をし始める
ことにした。
主にDVを恋人や夫から受けている人を重点に。
これが悲しい事に盛況だった。

反面、嬉しい事に研修を受けた記憶は無いのに法律のことは
頭に残っていることが確認できたのは嬉しい誤算。
知識は失われていなかった。

自分が出来る事をしよう。
少しでも社会に役に立ちたいし、毎日一緒に暮らしている
一那を見ていると頑張りたくなった。
一那に尊敬して貰いたい。
私を好きになって貰いたい・・そう意識が切望する。
一那はキッチンで料理している時も私の背中を抱きしめるし、
ソファーで座る時もピッタリくっ付いて座るし、
寝る時も「可愛い・・・愛してるよ」
と言ってくれる。
言葉では愛されているのを感じるのに何故か心が満たされない。
態度だって甘々なのに・・・何時だって手を繋いで歩いている。
なのに どうして不安が膨らんでいくんだろう・・・
恋愛が必ずしも幸福感だけで成り立たない事は知っていたけれど
結婚生活もこんなに不安になるものなのだろうか?

きっと私の中で解決できていないんだ・・・
一那とお姉ちゃんの事が。
もしかしたら記憶が斑な大学生活の時に解決しているのかも知れないが
今の私は2年以上前の記憶も曖昧で、一那との事だけでなく大学や家での
日常の暮らしを殆ど覚えていない事を知られたくなかった。
大学の友人の顔や名前は憶えているのに過ごした日々を思い出せない。
そんな情けない自分を誰にも知られたくなかった。
これ以上、大事な人たちに心配の種を蒔きたくなかっただけじゃない。
失望されたくない。

自分自身も知りたくないと心の奥底で思っていたから、この事を確認すると
パンドラの箱を開けてしまいそうで怖くて確認しないまま悪戯に時を過ごして
しまう。

その考え蓋をすれば平和に幸せに穏やかに日々過ごす事が出来る
自分のこの気持ちだけを封印すれば良いのだと・・・
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