目覚めたら初恋の人の妻だった。
鮮明に 過去に思いを馳せても
自分が大事な人の一番では無かった現実を思い知っても、それでもこの部屋に
戻って来るしか私には選択肢が無かった。
実家に帰る事も出来たとは思うけれど
聡い母は私の中に芽生えた何かを感じ取っていてこれ以上
心配を掛けたくなかった。もう、十分すぎる位に悩ませている
のが眼差しから言葉から伝わる。

「少し、入院する?」

この病院は母の伯父が院長を務める病院だから融通が利くからと・・・
その言葉に甘えに3日入院した。

その話をベッドサイドでする母の頭を見て愕然としてしまう。
普段、綺麗に染めているから解らなかったが、
白髪が・・・母の地毛の色とは違う色彩を放っている事に
近くで見て気がついてしまった。こんなに心配掛けていたんだ・・・
よく見れば、いつの間にか母の背中が私より小さくなっていた。

傷ついてボロボロになってやせ細ってしまった中学2年の秋。
「海外にホームステイに行く?」と
助け舟を出してくれた母の背中は大きくて温かかった。
あれから10年近く経つのに私は未だ同じ人達で同じ事で
悩み苦しんでいた。
あの時に乗り越えたはずなのに何処で私は同じ道に迷い込んでしまった?
朧気で、揃わないピースを一生懸命手繰り寄せる。
”先生” 看護師さんが廊下で呼ぶ声が・・・”先生”
「あっ!」私は自分自身の口から出た声に思わず手で塞ぐ。
事故の時に見た赤い月を見ながら私は
先生を思い出していた。
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