目覚めたら初恋の人の妻だった。

小学校から中学に上がる時に私はカズ君と姉の通う、
明応学園を受験したかったが、父の猛反対で
幼稚園から通う桜華学園にそのまま
内部進学を余儀なくされた。
3人の中で一人だけ異なる学校。
勿論、文化祭も体育祭も時期も内容も異なる。
小学生の時には感じなかった疎外感が中学生に
なってから感じ始めたのもこの頃からだったと思う
カズ君と姉の話している日常会話が解らないのだ。

「〇〇先生がね~」
「体育祭でね・・・」
それでも傍に居たかったし、カズ君は私にも
解るような話もしてくれていた。

平日、私がカズ君に会えるのは帰宅後の僅かな
時間なのに姉とは一緒に登校していたらしく
私がそこにお邪魔虫の様に一緒に登校する様に
なって喜んでいたのが道化師のようにだったと
今は思い出される。

テスト期間ともなれば2人で勉強している事も
あったりしていた。
ここでも微妙にズレる日程にドンドンと私は
寂しくなっていき何故か虚しくもあった。

その寂しさを穴埋めるように無邪気な子供の
フリをして勉強しているカズ君の隣に座ったり
背中を付けたりしていた。
カズ君は嫌がる事も無く普通にそのまま居させて
くれたが姉には
「勉強の邪魔だから寄りかからない!」と怒られた。
それでも私は気がつかないフリをして
「カズ君、私と結婚して。」と
何度も本気のプロポーズをしていた。
その度に
「柚菜が大人になったらね」と
毎回同じ返事を貰い、頭をポンポンされる事が
嬉しかったのにそれが愛情表現だと思っていたのに

でも、違ったんだね。

妹みたいにしか思われていなかった。
実際、姉とキスをする位だからいつか本当の兄に
なってしまうのかもと
この時、その日が近い将来訪れるであろう
未来に絶望した。

目が腫れるほど涙し、姉にもカズ君にも
会いたくないと思っていたのに寝たふりをした
私を2人揃って起こしに来て、腫れた目を見た二人は
凄く驚いていたが、日焼けと寝すぎだと話したら
スンナリ納得してくれ逆に自分はこの程度なのだと。
自分なら大好きな人の変化には敏感に気がつくのに・・
所詮、カズ君にとって私は妹か隣の幼馴染なんだと
思い知らされた。

その日の食後の団欒は何時もと違い私には地獄だった。
毎回そうだったように、リビングでは大人が
アルコールを嗜み、私達子供はお茶で雑談を
楽しんでいる体でいた。

本当はこんな空間にもう居たくなかったし
2人の会話に入りたくもなく、紛らわす為に付けたテレビから
兄妹の心温まるエピソードが紹介されていて
話題にしてしまった私。

「お兄ちゃんって良いな~」そう口にした瞬間
まるでその問いを待っていたかのように姉が間髪入れず

「柚菜にはカズ君っていうスーパーマンみたいな
お兄ちゃんがいるじゃない」
そう言われた。
あのキスシーンを見なかったら
「お姉ちゃんも同じでしょ!」
と返せたはずなのに・・あのシーンが脳裏に浮かび、
その言葉を口にすることが出来なくて代わりに
「そうだね。」と
半分諦めの境地で口にするしか対峙できない
不甲斐なさに臍を噛んだ。

同時に自分の中で凄くイヤな部分の自分が芽生え
姉に対する嫉妬や妬み、そして父が猛反対したばかりに
通えなかった明応学園すら腹立たしく思う感情に
戸惑うしかなかった。

一緒に登校していたら、カズ君とキスしていたのは
自分だったのかもと・・・
そんな醜い自分を、恋心を持て余してしまった私は
「じゃあ、カズ兄ってこれからは呼ぶよ」と
言ったのはカズ君が
「今まで通りで」と言ってくれる期待もあった。
なのに、カズ君は見た事がない冷たい視線を私に向け
何も口にしてくれなかった。

自分の浅はかな考えで私はその日からカズ君と
呼べなくなってしまい 結果、進んで
妹のポジションを受け入れる羽目に陥った。
情けなくて悔しくて笑う事も怒る事も
泣く事も出来ず茫然とその後の遣り取りを
まるで何か出来の悪いドラマでも見ている様に
他人事のように見つめ、心は助けを求めていたのに
誰も助けてくれなかった。

その日を境に私は2人と距離を置くように心掛け、
自分の存在が恋人同士の邪魔をしている。
そう思われない様に行動する。
別荘では食事以外は自室で読書をして過ごす事を
心掛け、初めは誘いに来ていた2人も諦めたのか
誘いに来なくなった。
多分、2人で過ごしているのだろう・・
それさえも確認出来ないほどに
私の心は疲弊し、
何時もは楽しくて東京に帰る日に駄々をこねて
カズ君を困らせていたがこの時はその日が
待ち遠しかった。

そして私がこの別荘で過ごした最後の夏になり、
2度と足を踏み入れる事はなかった。
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