目覚めたら初恋の人の妻だった。
そんな葛藤さえも段々と薄れてきた頃に体調不良に
見舞われ、朝が起きれない、怠い、の症状に梅雨の
季節も重なり気圧の変化かと騙し騙し仕事を
続けていたが同僚の「生理きてる?」の問いに
固まってしまう。

慌ててアプリを立ち上げる・・なんの為のアプリなんだか
心の中で悪態をつきながらもどこかに嬉しさを
否定できないのも間違いなく私自身の感情。
はやる気持ちを押し殺し就業後 ドラッグストアに駆け込み
細長い箱を購入した。

クッキリと映し出された線・・・・
何度も説明書を読み妊娠の可能性が高い・・・

嬉しいのだろうか?
怖いのだろうか?
グチャグチャの気持ちを抱え茫然とそのスティックを
眺め続けた。

コンコンコン
「柚菜?   入っているの?  大丈夫? 」
扉を叩く音と心配そうな声で現実に引き戻される

「あ、ごめん 直ぐに 出ます   」

どうする?
ほぼ確定だけれど説明書には必ず医師の診断をと
記載されている。
未確定なのに話してぬか喜びさせていいの?

いや、喜んでくれる?
それとも・・・・考えてみたら私達は子供の話をも
した事が無かった
普通、恋愛中や新婚の頃に子供は何人欲しいとか
そんな話を小説やドラマでは盛り上がっている
場面があるが、私は姉の影に怯えて未来を
見出せなかったし”いらない”と言われるのも
怖かったし、逆に具体的に何人なんて話になったら
期待して手放せなくなってしまうと思っていたから
未来を口に出来なかった。
日々遣り過ごすので精一杯だったあの頃。
”姉”と云う憂いは消えたけれど、大事な事を確認しない
うちに今日を迎えてしまった。


だから一那が子供が欲しいのか子供が好きなのかも
知らない。

まだまだ私達は普通の夫婦になりきれていない。

言う?言わない? どうする???

そんな私の葛藤を他所に

「柚菜 赤ちゃん出来たの???」と

柔らかい声で口にする

「へぇ?」
なんともみっともない声が口からでてしまう。

「これ  」
顔の前でフルフルと振られるさっき購入した
細長い空き箱

「あ・・・・」

テーブルの上に置きっぱなしにしてトイレに
駆け込んでしまったさっきの自分の
行動を思い出し、血の気が引く・・・

「あ、えっと・・・・・」

「うん? どっちだった?」
箱に書いている要約に目を通しながら
まるで、今日のご飯は何?って聞いている様な
軽い感じで口にする一那を茫然と見つめる。

その軽い口調に私達は夫婦としては未熟かも
しれないけれど誰よりも分かり合えている
だって私が診察していないと明言出来ない性格
だってことを解っているだから今 一那は
出ている結果を聴きだそうとして
言葉を紡いでいるのを私も一那を理解しているから

「うん。クッキリ線が出たから明日、産婦人科に
行ってみる」
「解った。 俺も付き合うから・・」
「え 大丈夫だよ 仕事あるでしょ?」
「ゆ~な~ その子の父親はだれ?」
「 一那  」
「じゃあ、行くのは当たり前だよね。それに 
ここ最近の体調不良が妊娠なら安心できる。 
逆に違うなら 他の病院に行こう。
今日はその話をしようと思って帰ってきたら
思わぬサプライズで本当に 安心したんだから 」

時間を忘れてトイレに籠ってしまう程不安だったんだ
私の方こそ、その言葉にどれだけ今 安堵した事か

「一那 ありがとう 産婦人科行くの初めてだから
着いてきてくれたら安心できる」

私達に必要なのは 謝る事じゃなく、許す事でもなく
感謝し、思い遣り、言葉にすること。

「おぅ!  プレッシャーになるかもしれないけれど
 楽しみだな」

私のお腹を撫でながらの言葉に張り詰めていた神経が崩壊した。

嬉し涙???安心の涙??? ホルモンバランスの乱れによる涙?

哀しみ以外で流す涙が頬を伝わり暫くは止まらなかった。

涙って嬉しくても流れるのね。












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