目覚めたら初恋の人の妻だった。

その先に


一那の取締役就任をきっかけに私達の周辺は
バタバタした日々に忙殺され気がつけば幾つの季節を
2人で駆け抜けたのか、想い出に浸る暇もなく
過ぎ去った。
就任を機に私は顧問弁護士として加瀬グループの
非常勤勤務を兼任し、社員の福利厚生の一環で
社員が法律の相談を気軽に出来る環境を作り出し、
社員の憂いを少しでも法律の力で軽減する事で
職場環境、仕事の効率アップを目指す取り組みに
一役買い、それが思いの外盛況な部署になっている。

なにより一番の私の心配事だった姉が妻と
認識されているのでは?の恐怖や不安は
驚く事に杞憂で終わった。
不思議なくらいに何も噂もされず、
疑問にも持たれなかったのだ。
結局人の顔認識なんてそんなものなのかも
しれない。

モーニングを食べに行った日から私達の距離も
少しずつだけれど自然と歩み寄り、一那も無理に
過去の思い出を追わなくなったみたいで
新しい軌跡を刻もうとしてくれるようになり
記憶を失くす前の様な感じとは又違う接し方に
なって来たのはお互いが怯えていた影が少し
薄まったからかもしれないが
大学生の時なような接し方とも違い、
少し変化したコミュニケーションを
取っているのは新婚気分が抜け、
恋心と家族愛みたいなのが
混ざって来たからなのだろうか?

一那の行動に猜疑心を向けると思っていた私の心は
一那が予定を共用アプリで詳らかにしてくれて
いたのが良かったのかもしれない。
私は幾らでも誤魔化せると思っていたがその実、
一那の計らいに安堵していたようだ。

どんなに知識があっても利口に生きて行こうと
心で願っていたとしても私は何処までも愚かで
一那と歩む人生を理由をつけて手放せないでいる。
そして、些細な思い遣りに安堵してあの心の痛みが
薄くなっていくのを感じながら後悔と安堵を繰り返し
日々の仕事に追われ、
自分を軽蔑しつつ許している。
仕事とは言え、離婚する事に携わっているにも
拘わらず、時と場合にもよるが推奨したりする事さえ
あるのに立場なのに自分のこととなると、
上手くいかない。
離婚できる人の潔さを私は持ち合わせていない
ただの軟弱ものでしかない
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