目覚めたら初恋の人の妻だった。

閑話 父の想い

2人の可愛い娘に恵まれ、弁護士としても
父親としても夫としても順風満帆にきたのは
妻の内助の功が大きかったから感謝している。

弁護士として成功するには妻の社交活動も外せず
その分、幼い子供達には不便を強いた時も
あったかもしれない。
だからこそ受け取れる恩恵を家族と分け合いたいと
思ったから家族旅行、様々なイベント、お稽古、
学校には惜しみなく時間もお金も割いてきた。

香菜と柚菜。
妻に面影が似ている香菜。
私と妻の両方に似ている柚菜。
どちらも同じだけ可愛くて愛おしく大事に
育てて来たし比べた事もなかった。
同じように愛してきた。

弁護士になって欲しいなんて考えた事も無く
ただ、幸せになって欲しいとだけ願って来た。

自我が芽生える頃から顔もだけれど性格も
全く似ていなく、妻が選んだ学校に其々
楽し気に通学している。
柚菜を明応に進学させなかった事に後悔は
全くなかったけれど、明応に進学せていたら
あの事故は起きなかったので?と
あの日以降は自分の判断が正しかったのか
自信が無くなった。

一度考えるとドミノ倒しのように”たられば”に
支配されてしまう。

隣家の加瀬家当主とは先輩後輩の仲だったのが
偶然の巡り合わせで近所付き合いから始まり、
お互いの家を行き来し、旅行まで伴にするように
なったことは有難かったが、娘を嫁がせるのは
想定外だった。
しかも、大学卒業と同時なんて・・・・
ショックで立ち直れない日々を過ごしたが
事故の一報を聞いた時には、嫁に出したくらいで
落ち込んだ自分が滑稽に思えた。

妻と駆け付けた病院で只ひたすら待つことの
恐ろしさ、誰に怒りを向けて良いのか解らず
握りしめた掌に血が滲むのを耐えたら娘は
助かると余計に握りしめる。

固いベンチに座って何時までも消えない
[手術中]のランプを見つめながら
連絡しても繋がらない一那君への怒りが湧いて来る
八つ当たりだって解っていても、嫁に出さなければ
あの家に住んで居なかったら、次から次へと
浮かんでは消える憤り。

そんな私の拳に妻が手を添える。
その余りの冷たさに私以上に妻が動揺しているのに
取り乱せないでいる妻の強さと脆さが伝わり、
宥めるように自分の手を重ねた。

「柚菜なら大丈夫」
私の声か妻の声かどちらでも良かった。
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