目覚めたら初恋の人の妻だった。

姉が動く

「柚菜に赤ちゃんが出来てね・・私もおじいちゃんだ」

定例の食事会でパパが口にした言葉に一瞬固まった。
思考が追いつかなかっただけ いつかこんな日が来ると
心の何処かで悟っていたけれど、想像していたよりも
簡単に受け入れられたのは私を大事にしてくれている
パートナーの存在とパパのお陰かも知れない。

パートナーもパパも”香菜”と呼んでくれる。
それが嬉しかった、当たり前にあった幸せに気がつかなかった
「お姉ちゃん」 確かに柚菜は呼んでくれていたのに・・・

不出来な娘だとの自覚はあった。
頭の良い柚菜のおまけのような存在だと思われているのかも
しれないと、勝手に卑屈になっていた あの頃を救って
くれたのはカズ君への想いだった。
それを膨らませて、身勝手な想いに向かい、大切だった
妹を傷つけ、失くしてしまった。
あのホテルで誠心誠意謝罪をすべき相手は柚菜だった。
何処かで自分は悪くないとの思いがあったから許されなかった。
今なら解る   もう、遅いだろうか?

でも、きちんと謝って今更だけれど結婚のお祝いを口にしたい。

姉として家族として最低限の事さえ出来なかった
謝罪を許されなくてもしたい。

拒否されるのは怖い。
罵倒されるなら未だマシ。
無視されたくない・・・
恐怖で一杯だけれど 私が長きに渡ってして来た事への報いを
受け止めないと。

服の上からも解る程の胸の鼓動を自分の両手で押さえ
パパから聞いた聳え立つマンションを見上げ
引き替えしたくなる気持ちを奮い立たせ踏み出す。








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