ひみつというほどのことでもないこと。




「お前さぁ、人に知られたくない秘密ってある?」


居酒屋のバイト終わり。

まかないであるオムライスを食べていたところにやってきた、私の交代でシフトに入る先輩。
結んでいたアッシュグレーのふわふわした髪をおろしながら、挨拶もそこそこに聞いてきた。


「お疲れ様です。なんですか急に」

「お疲れ。いやさ、こないだ浮気がバレちゃって」


悪びれもなく答える、最低な男にため息が溢れる。


「最低。自業自得じゃないですか」

「バレないようにしてたつもりなんだけどな」


この男がモテる理由が顔以外に見つからない。
顔が良ければなんでも許されるのか。不条理な世の中だと思う。


「女はそういう微妙な変化さえ、気がつくものですよ」

「怖いな。浮気できないじゃん」

「浮気しなきゃいい話じゃないですか」


なぜ、浮気をしないという真っ当な思考に至らないのだろう。

そこそこ頭のいい私立大学に通っていて、バイトリーダーとして頼りになる先輩だけれど、たまに、本当はものすごくバカなんじゃないかと思う。




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