日陰のベンチで、あなたに会いたい

そっか、私と仲良くなりたかったのか……そっか……。

『仲良くなりたい』
それは、私が今までいろんな人に言いたくて言えなかった言葉。

今まで他人から言われた言葉の代表例は、睨まれたとか酷いこと言われたとかだった私には、こそばゆくて、なんだか嬉しい。

他人から言われると嬉しいものなんだな。

「仲良くなりたかった……」
自分にだけ聞こえる声で、つぶやいた。

さっきまで怖かったのに、今は温かい気持ちでいっぱいだった。

言われたかった言葉を言ってもらえて、自分の顔が少し緩んでいくのが分かる。

今までに経験ない温かい感情に夢中になっていた私は、歩き去っていく後ろ姿が止まって振り返ったことに気付かなかった。

「あのさ」と話しかけられて初めて気づく。

緩んでいた頬は瞬時に引き締まり、いつもの無表情に戻った。

「君さえよければまた……ここで、話しかけていいかな?」

今までとは違い、こちらに選択権を与えている言い方だった。
そして、まるで懇願が含まれているような言い方だった。

「お、お好きに」

いつもなら嫌と言っていたかもしれないが、少し緩んでいたのと先輩の様子とで珍しく、鋭い言い方にはならなかった。

かといって、柔らかい言い方でもないのだが。

私の返事を聞くと先輩は破顔して笑った。

「ありがとう!
じゃあ、明日晴れたらまたここに来るね! 」

急な破顔に驚いて、反射的に頷いてしまった。

先輩は言いたいことを言い切ったのか、そそくさといなくなってしまった。

あした、また、か。

ん?明日?

「明日!?」

珍しい自分の大きな声が、耳と辺りに響いた。
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