社長、それは忘れて下さい!?

3-6. Fall in hand


 龍悟がスピーチを終えて控室に戻ると、旭が『社長は四十点』と教えてくれた。一体何の点数かと思ったが咄嗟の演技力の点数らしい。

 涼花が満点に五点足りなかったのは、イントロダクションの作り笑いが真顔すぎて一瞬ヒヤリとした分の減点だそうだ。けれどその後、一転して満面の笑顔を見せるというギャップ技を披露したので、旭の採点では高得点となったようだ。

「社長はそんなに酷いんですか?」
「そりゃもう、肝が冷える程だよ」
「お前たちにはスピーチを頑張った上司を労う優しさがないのか?」

 龍悟が不満そうに唇を尖らせる。

 涼花と旭も、壁際に控えて龍悟のスピーチはちゃんと聞いていた。しかし龍悟が艶と気品のある声音に巧みな表現を乗せ、絶妙な間合いとしなやかなジェスチャーを駆使し、ユーモアのある冗談を交えて華麗な挨拶をさらりとこなすのはいつもの事だ。真似をしようとして出来るものではないが、龍悟からは『頑張った』という程の気合いも疲労も感じない。

「社長、お疲れ様でした」

 子供のような口振りで拗ねるので素直に労うと、龍悟が満足したように涼花に微笑んだ。

 それはさておき、と旭が話を区切り、回収した透明の小瓶をポケットから取り出す。用意された水差しの隣にその小瓶を置くと、龍悟が訝しげに小瓶を睨んだ。
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