社長、それは忘れて下さい!?

 万が一用意したものと個数が合わなかったり、明らかに色や形が異なるものを検出した場合を想定して、宝探しゲームの『宝』はアメやチョコレートに設定した。白色以外の薬剤が杉原の所持品から出てきたら『類似品に該当するので一旦預かる』という設定を作り、一度控室に戻ってからポケットに仕込み損ねた色や形状のものとすり替えられるように、入念に保険をかけていたのだ。

 あとはこれらを掻い潜った杉原が『持病の薬なので絶対に手放せない』と言い出さないことを天に祈ってボディーチェックに挑んだが、予想は大幅に外れ、予想より容易く獲物は旭の手中に落ちた。

 龍悟が小瓶を摘み上げ、中の液体の存在を確かめるようにふるふると振る。水より粘度が高くネイル剤より薄い液体は、小瓶の中で波を立てて揺らめいた。

「なるほどな。人目を盗んで刷毛でグラスや食器に塗れば、周りにも気付かれにくい。万が一目についても、ただの水滴だと思うか」

 龍悟が心底呆れたような、けれど反面、感心したような声を漏らす。その言葉には涼花も唸るしかない。

「このようなものが塗られてるなんて、全く気付きませんでした」

 恐らくこの薬は、箸かビールのグラスに塗られていたのだろう。だが海鮮料理を味わう箸に水滴がついていても、結露したビールグラスに水滴がついていても、それを疑問には思わない。おまけに変な味がするわけでもないのだ。
< 109 / 222 >

この作品をシェア

pagetop