社長、それは忘れて下さい!?

「なるほどな。液体だったとは想像してなかった」
「てっきり錠剤か粉末剤だとばかり思っていましたからね」

 龍悟が椅子の背もたれに背中を預けて、深い息を吐いた。旭も肩を竦めて両手を挙げると同意を示す。もちろん涼花も同感だ。『薬』と聞いた時点で、錠剤か粉末剤かカプセル剤のいずれかだと、勝手に思い込んでいた。

 涼花が体調不良になり龍悟に看護された夜、旭が料亭に残って飲食物を回収し、成分調査まで行っていたことはかなり後になってから聞かされた。

 旭が言うには、固形物は回収出来たが液体や食器までは手が回らず、結果疑わしい成分はほとんど検出されなかったらしい。店の従業員に話し、宴席やトイレのゴミ箱も検めさせてもらったが、怪しい薬包も見つからなかった。だから回収できなかったビールの中に、薬剤が溶け出してしまったというのが龍悟と旭の予測だった。

 だからボディーチェック時の旭のポケットには、様々な粉末や錠剤が入っていた。怪しい薬剤が見つかったら、杉原の目を盗んですぐにすり替える予定だったのだ。

 無論ポケットがパンパンになるとあまりにも怪しいので、一般にありふれている薬に似たものを厳選して用意した。杉原が製薬会社の名前が入ったフィルムやケースをそのまま使用しているとは考えにくかったので、こちらもそれに合わせて、何も記入されていない透明や半透明の袋に、何の効果もない小麦粉の玉や粉を詰めていた。
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