社長、それは忘れて下さい!?

1-2. Fun alcohol


 店長とエリカの会話を楽しんでいるところに、別の客が入店してきた。ふと入り口に視線を向けた瞬間、涼花は自分の意識とは関係なくその場に立ち上がっていた。

「社長!?」
「あれ……秋野?」
「お、お疲れ様です……!」

 入店客の正体に気付き、完全に落ちていた仕事スイッチを無理やりオンにする。龍悟は涼花の姿を見て目を丸くしていたが、言葉を発する前に店長に横やりを入れられた。

「龍、ごめん。前に借りたあの本、まだ読んでねぇわ」
「はぁ? 本一冊読むのに何年かかってるんだ」
「まだ二週間だろ。俺はお前と違って超人じゃないから、一冊五分じゃ読めねぇの」
「俺だってそんなに早くは読めねーよ。それにしても二週間はかかりすぎだろ」

 突然始まったやりとりに、涼花だけではなくエリカまでぽかんと口を開けてしまう。飲食店の店長とただの客にしてはやけに親密そうだ。

 目の前のやりとりから二人が知り合いであることはすぐに察する。しかし何年もこの店に通っていて、店自体も会社の近くにあるのに、二人の接点には全く気付かなかった。

 涼花の視線に気が付くと、店長がにこりと笑顔を浮かべる。

「すずちゃん、エリちゃん。ごめんね、コイツうるさくて」
「うるさいのはお前だ……ってか、すずちゃんって……」
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