社長、それは忘れて下さい!?

「お二人はお知り合いなんですね」

 やりとりを黙って見ていたエリカにも、目の前にいる人物が涼花の上司『一ノ宮龍悟』であると理解できたらしい。もちろん酒に弱い妖怪呼ばわりしていたことなどは微塵も感じさせず、エリカは龍悟に向き直ると丁寧に腰を折った。

「初めまして、滝口エリカと申します。涼花の友人で、ネイルサロンを経営しております」
「ご丁寧にありがとうございます。グラン・ルーナ社代表取締役の一ノ宮龍悟と申します」

 プライベートの時間のはずなのに、二人はしっかりと名刺交換を済ませている。規模や部門は全く異なるが、経営者同士人脈形成には手抜かりがないようだ。

 お互いに挨拶を済ませると、今度は店長が二人の関係を説明してくれる。

 龍悟と店長は同じ大学の経営学部卒で学生時代からの友人なのだそう。エリート御曹司の龍悟と異なり、卒業後の店長は定職に就かず世界を巡る旅をしていたらしい。

 だが地球上のあらゆる国の料理を食べ歩き、その経験を活かして自分の店を持つまでになったのだ。店長の生き方も夢があって素敵だと思う。

「経営学がちゃんと活かされてるかは不明だがな」
「結構どんぶり勘定だからね、俺」
「そこで開き直るな」
< 12 / 222 >

この作品をシェア

pagetop