社長、それは忘れて下さい!?

3-7. After the party


 パーティの最後の挨拶は副社長が行った。喋りの上手さは一ノ宮一族に受け継がれているのか、龍悟より若い彼もまた低音ながらよく通る美声とたおやかな振る舞いで、グラン・ルーナ社と招待客の明るい未来を朗々と語って締め括った。

 招待客の見送りを済ませると、会場の片付けや撤去を後の者に指示し、三人は会社へ戻るための社長専用車へと乗り込んだ。革張りの座面に腰を落ち着けた龍悟は、助手席に乗り込んだ旭を慰労する。

「ご苦労だったな、旭。お前ほとんど何も食えなかっただろう?」

 旭はあの後、薬物が入った小瓶を持ってグラン・ルーナに帰社した。薬物は社長室にある管理金庫に保管し、本格的な対応は週明けにしようと考えていた。

 だが高度な研究所を要するアルバ・ルーナ社のラボに連絡を入れたところ、すぐに調査を始めてくれるという。旭は執務室から龍悟に報告し、今度はアルバ・ルーナ社へ向かい薬物の調査依頼を済ませると、その足でまたパーティ会場まで戻ってきたのだ。

 龍悟の指示で、しかもあまり公に出来ない事案に対応しているとはいえ、中々骨の折れる一日だったはずだ。しかし旭は助手席から首だけ動かして、

「食べましたよ。琉理亜ちゃんにイチゴ貰いました」

 と嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「あぁ、吉木社長の娘か」
「すごいですよね、琉理亜ちゃん。まさか限定のデザートプレートを見つけちゃうなんて」
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