社長、それは忘れて下さい!?

「だいぶ参ってるみたいですね」
「そう見えるか?」
「いえ、見えませんよ。ぱっと見はいつもと同じです。ただ最近、溜息が多いですかね」
「……気を付けるよ」

 無論、愚痴を聞く程度の事なら構わないが、旭は助け舟を出したり、キューピットになろうなどとは思わない。大人なのだから、自分の恋愛ぐらい自分でどうにかするだろう。

 旭が気になっているのは、龍悟よりもむしろ涼花の方だ。旭の予測が正しいと仮定して、もし涼花が龍悟のアプローチのかわし方に失敗したのだとしても、それぐらいで何日も気にする必要などないと思う。

 確かに上司の誘いは断り難いだろうが、龍悟は無理強いをする性分ではないし、涼花自身も嫌な事を嫌だと言えない性格でもない。仕事に影響が出るほど涼花が動揺する事も無いと思うのだが。

 さて、どうしたものか。と考えたところで、執務室へと続く扉から再びコンコンとノック音が聞こえる。

「あ、終わりましたか?」

 開いた扉の向こうから涼花が顔を覗かせた。彼女は来客が帰ったことを確認すると、使用済みのグラスを片付けるためにお盆を手にして応接テーブルへ近付いてきた。

「社長。二十分ほど前に専務から内線がありました。来客対応中なので、終了次第折り返しますとお伝えしてありますので、お電話を……どうなさいました?」
「……いや、何でもない」

 涼花がグラスをお盆の上に乗せながらごく事務的な内容を伝えていたが、龍悟はまた何かを思い出したらしい。少し不機嫌そうな顔をする龍悟の様子を見て、涼花もすぐに俯いてしまう。

 旭は目の前で繰り広げられる小さな攻防を見て、そっと苦笑いを零した。
< 161 / 222 >

この作品をシェア

pagetop