社長、それは忘れて下さい!?

 涼花の心境の変化の理由はわからない。だが龍悟も、本当は『面白くない』と態度や言葉で堂々と示したい気持ちがあるのだろう。しかしそれをすれば、涼花にとっての『良い上司像』から逸脱してしまう。と龍悟は考えているらしい。

 旭の個人的な意見だと、嫉妬や不満の一つや二つで上司の評価が変わる事はない。だがここ数日の様子から二人の間に何かがあったらしいと推測できるので、軽はずみに『そんな事はない』とも言えない。

 そっと息を吐く。旭が思うに、龍悟は相当な男前だ。引く手数多で龍悟の恋人になりたい女性は掃いて捨てるほどいるが、その理由は龍悟が上司として優れた人物だからではない。この色男を目の前にして、出てくる言葉が『良い上司』のみとは恐れ入る。

「涼花も見る目無いなぁ」
「……どうかな。逆に下心まで透けて見えるから、俺じゃダメなのかもしれない」

 一応フォローのつもりで言ったのだが、龍悟には思い当たる何かがあるらしい。龍悟の口振りだと直接NOと言われた訳ではなさそうだが。

(アプローチを綺麗にかわされて、社長が大ダメージ。断り方を間違って涼花が気を遣ってるってとこかな……)

 元気がない龍悟の様子を見て、旭は二人の置かれている状況をそう予測した。

 龍悟は人の仕草や目線、表情の変化から相手の感情を読み解く能力に長けている。だから涼花が龍悟のアプローチをかわすのに失敗し、龍悟がそれを察してしまった。

 もしこの予想が当たりなら、かなり面白い状況だと旭は思う。パーフェクトヒューマンと言っても過言ではない龍悟に靡かない人が、すぐ間近にいるとは不思議な気分だ。
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