社長、それは忘れて下さい!?

4-8. I remember


「最近」

 シャワーを済ませてベッドに戻った涼花の身体をゆるく抱きしめながら、龍悟がぽつりと呟いた。

「お前も、少しは俺の事を気にしてくれてるんじゃないかと思い始めてたんだ」

 小さな告白に涼花の眠気が少しだけ覚醒する。顔を上げると龍悟も涼花の顔を覗き込んでいた。

「本気で嫌がってるようには見えなかったし、考えてみたら忘れて欲しいとは言われたが、嫌だとも迷惑だとも言われなかったからな」

 龍悟の考察に、涼花はなるほどと納得した。

 涼花は自分の気持ちに嘘をつくことは出来たが、龍悟自身を拒否することは出来なかった。距離を置こうとは思っていたが、自分が逃げるばかりで、龍悟に自らから離れてもらうための台詞を言ったことはなかった。

「人の気持ちを読むのは割と得意だと思ってたんだが……」
「得意なのを知っているからこそ、必死だったんです」

 必死、だった。

 プライベートでどんな事が起きようと、仕事には影響を与えたくなかった。何せ社長である龍悟の下には多くの社員が連なっている。秘書が失態を犯せば、責任を取るのは上司で、迷惑を被るのは社員全員だ。

 それは絶対にあってはならないし、龍悟の足枷にだけはなりたくなかった。だからどんなに逃げたいほど苦しくても、始業の時間から終業の時間までは必死に仕事の頭に切り替えて接した。
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