社長、それは忘れて下さい!?

 旭の文句を受け流すと、龍悟も自分のPCの電源を落として立ち上がった。ジャケットに袖を通しながら腕時計の時刻を確認する。つられるように涼花と旭も壁に掛けられた時計を見上げた。今から約束の料亭に向かえば、多少道が混んでいても余裕を持って到着できるだろう。

「涼花、今日はほんと気を付けて」
「? 何がですか?」
「向こうの社長。すっげーエロ親父だから」
「えぇ?」

 準備をしながら真顔で忠告する旭の言葉に、涼花は怪訝な声を漏らした。会話を聞いていた龍悟も肯定するように畳み掛ける。

「そうだな。向こうが席を離れてる間は、秋野も席を立つなよ。廊下や手洗いで二人にならないほうがいい。万が一俺と旭が同時に席を離れるようなことがあれば、お前も適当な理由をつけて俺か旭のどっちかに付き添う形を取れ。普段なら相手を放置して全員同時に席を立つのはどうかと思うが……今回はいい。何か言われたら、俺の名前を出して構わない」
「そ、そんなにですか?」
「そんなに、だ」
「あと更衣室に着替えがあるなら、スカートじゃなくてパンツにした方がいいと思うよ?」
「そっ、そんなにですか!?」
「そんなに、だね」
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